Interview  

出井伸之

今だから「クリエイティブ」を問う
2010.5.7

1990年代半ばからグローバル企業・ソニーグループのトップとして、電器・エレクトロニクスと共に映画、音楽等のエンターテイメント・コンテンツ事業を牽引。
従来メーカーの枠を越えた企業経営を進めてきた出井伸之氏が2006年に独立し、新会社「クオンタムリープ」を設立。
これまでにも増して活発に、自らの思考や仮説を社会に向けて発信している。
軟弱なクリエイティブ志向など吹き飛んでしまうような、未来型の企業文化、社会システムについて話を聞いた。

将来の「コミュニケーション」に注目したい
―クオンタムリープではどんなことを目指しているんですか。

この会社が行っている業務は新知識サービス産業とでも言うべきものです。類似の例はあまりないですね。
かみ砕いて言えば、私たちクオンタムリープが仮説を作って、国内外を問わず、それに共感する人たちと一緒に働いていこうということを行っています。ビジョンとか仮説というオリジナルのものはアウトソーシングできませんし、仮説そのものにバリューがあるわけです。ビジョン以外に関しては専門家はいくらでもいますし、プロジェクトマネジメントとして「この指止まれ」形式でプロフェッショナルが集まる、という感じで21世紀型の新しいビジネスを作っていこうと。その意味では常に最新の情報が必要なので、気軽にいろんな方に、自由に話をしに来ていただいています。

―業種業態を問わず、様々な企業が知恵を借りに来るという。

こちらの仮説に共鳴していただくのと同時に、先方の会社を見させていただいてこんな可能性があるんじゃないか、ということをご提案しています。経営者ご自身では自社について気づかないことの方が多いですからね。客観的に見た方が会社のバリューがわかりやすい。今、やっていることの趣旨とは全然別のところに面白さが見出されたりするんです。
余談だけど、この間、テレビで紙漉きを紹介していて、漉いた紙をランプシェードに使っていたのですが、僕はアートフラワーに使うといいんじゃないかと思ったんだ。

―本来の狙いとは別のところに面白さがあるということですか。

和紙の産業が厳しいという話を聞きますが、それは和紙の使い方、アプリケーションが増えていないからですよね。和紙に限らず、創意工夫はあらゆるところに求められていると思うんです。メディアで「日本のパッケージデザイン」という特集を見れば、いかにみんな同じかがわかるしね。大企業はまわりと同じようなものを作る傾向があるから、そうなっちゃう。コンビニエンスストアを見てみても品揃えはほとんど同じだと思うし。
僕はいつも生の声を聞きたいと思っているから、今度、渋谷「109」の販売員さんと飲みながら話をしてみたいと思っているんだけれど、その人たちが何に価値を認めているかというのを突き止めないといけない。それをシャネルだ、ルイ・ヴィトンだと言っているうちは体制派なわけで、将来の意見に注目していったほうが面白いと思うんだよね。それが新しい時代を作るのに必要なコミュニケーションだと思う。

世の中に新たな価値を生むのかどうか、見極める
―ベンチャー企業に対して行うアドバイスのポイントは?

その会社がやっていることを見るよりも、それを担う人を見た方がいい。その人が持っている総合的なパワーが感じられたらいいですよね。その上でその企業が世の中に新たな価値を生むのかどうかを判断したい。科学的価値、社会的価値等々、何でもいいのですが、ユニークかつ、企業として正統な価値を生んでいる会社を支援したいと考えています。
そういう決断をするのは割と僕は早いんですよ。例えば松本(大)さんのマネックスには10年前、創業時に行った最初のミーティングでソニーが出資を決めたのですが、松本さんと僕が出会わなかったら、インターネット証券は魅力的なものとして成長しなかったと思うんです。

―文化・芸術に関わるベンチャー企業は数多くありますが、この分野にはどんな可能性がありますか。

私自身はいわゆる文化産業とか、そういうくくり方をしたことはないんですよ。決して芸術・文化は製造・技術の分野と離れて存在しているわけではないし、一体となって世の中が成り立っているわけですから。
さらに知識産業として、知とかコンセプトといったかたちで「知の生態系」を作るだけの力があるのかどうか、が問われていると思います。絵画で言えば、絵を描く人と売る人、飾る人、見る人、いろんな立場のことを考えなければならない。
東京を見ても、文化面で魅力があるかというと、きれいではあるけれど、文化的かどうかは疑わしいし、まだまだ未発達な街ですよね。生きているアートを扱っている場所は意外と少ないし、そういう意味では芸術・文化とビジネスを一体のものとして捉えている人はまだまだ少ないのではないでしょうか。

―ビジネスのなかで芸術・文化が活かされていない。

まだまだ特別だとか異質だという感覚があるのかもしれない。ビジネスも芸術・文化もそれに関わる人たちは同じ土俵にいるわけだから。
アメリカ人がメジャーリーグの開幕戦を東京ドームで行って、日本の選手をアピールして、テレビの放映権を高く売っているわけでしょう。いわゆる文化興行だと思うのですが、生態系を作ってその肝を握るのがうまいですよね。歌舞伎もちょくちょく海外に行きますが、日本を頂点とした歌舞伎インダストリーを作ろうとまでは考えないにしても、もう少し世界的な広がりが出てくるような動きがあっていいと思うんだよね。

…続きは『NODE No.5』をご覧ください

出井伸之 Nobuyuki Idei
1937年東京生まれ。60年ソニー(株)に入社。音響事業本部オーディオ事業部長、ホームビデオ事業本部長等を経て、94年代表取締役社長に就任。2000年から会長兼CEOを務める。05年に同職を退任後、07年まで最高顧問。06年にクオンタムリープ(株)を設立。現在、同社代表取締役のほか、ソニー(株)アドバイザリー・ボード議長、アクセンチュア、百度(baidu)等の社外取締役、早稲田大学評議会議長などを兼務する。

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