Interview オハナシ

喜多俊之

“ 極める”という考え方が 私たちの伝統のなかにある[後編]

ライフワークとして日本の地場産業を活性化する仕事に携わってきたプロダクトデザイナーの喜多氏。インタビューの後半では日本の伝統工芸が置かれている状況と彼のポリシーについて、核心に迫ります。

愛嬌のあるデザインが魅力的なWAKAMARU(2002年、三菱重工業)はセキュリティーや高齢者のために作られた家庭用ロボット。移動音声や表情の認証、インターネットサービス等の機能を備えている。
Photo by Isao Kobayashi

世界の財産として大切にしたい、日本の伝統産業

――伝統の技を活かした商品はマーケットを広げていけそうですか。

喜多 広げていかないと日本の産業が成り立たないと思いますね。日本は輸出立国ですから、伝統を活かして二番ではなく、一番良いものを作らないと世界では通用しないでしょう。クリエイティブやイノベーションを極め、質の高いものを作ること、それは日本の一つの宿命でしょうね。

幸い日本の伝統産業は極められていますから、それは財産ですね。「極める」という考え方が私たちの伝統のなかにあることが重要なんです。これはハイテクも同じです。日本のハイテクが優れているというのは「極め」の心が反映されているからです。少なくともこれまでは、そういう精神が我々の社会を支えてきた。でも、これからどこまで維持できるのか。だから、物がなくなるというより、心がなくなる方がもっと恐ろしい。伝統産業にしてもハイテクにしても「魂を入れて極めていく」という心が衰退していくことが一番問題です。

――危機的状況だということですね。

喜多 なぜなら、あまりにも日本の暮らしぶりが悪いからです。私はイタリアからも世界に向けて高級家具を作っていますが、海外の高級家具メーカーの多くは日本にはマーケットがないから撤退したんですよ。アジアでは韓国や上海で売っているんです。日本の家具は廉価の“家庭用品”ばかりになってしまって、家具の産地はひどい状態ですが、それは住環境の問題が原因なんです。伝統産業にも同じことが言えます。もう一度日本が楽しく、素敵な暮らしを取り戻さないことには、伝統産業は消滅してしまうでしょう。

――国の政策や企業の動きも関係してきますね。伝統産業に対する補助金については、どのようにお考えですか。

喜多 補助金をもらった作り手ほど、努力をしなくなってダメになっていく、ということを間近で見てきました。マーケットがないから物が売れず、経済的に困るので、政府が補助金を出す。そうすると作り手は補助金に頼るようになって、マーケットを考えることを忘れてしまったんです。私は「補助金は流通のインフラに使ってください。物を広める仕事は自分でやらないといけません」といつも言っています。実際にそれをやったところだけが残りました。補助金は業界全体にとっては重要ですよ。でも、個々のレベルではだめになることが多いんです。

――喜多さんご自身の仕事上のポリシーを教えてください。

喜多 使ってもらって心が豊かになるもの、大切にしていただいて、人生をともに歩んでいけそうなものを作りたいですね。特に日本的に仕上げようとか、そういうことはないです。今、地球環境が問題視されますが、自然を考えた物作りを、ずっと日本は続けてきましたからね。その意味ではとてもラッキーだったと思います。勉強しなくてもエコロジーが身についているということです。伝統産業もエコ文化ですから、そういう意味で世界の財産として失われてはならないと思いますね。

――近未来の目標は?

喜多 自然とテクノロジーのバランスをもう少し研究したいですね。その意味でハイテクノロジーに興味を持ち続けているし、伝統技術にも関心があるんです。決して過去に帰りたい、という意味ではないんですよ。常に未来に関心があるんです。デザインの道に入ったのもそれが動機なんですよ。

きた・としゆき

プロダクトデザイナー。1942年大阪生まれ。大阪芸術大学教授。69年よりイタリアを皮切りに国際的に制作活動を展開。家具、家電、ロボット、日用品に至るまで、分野を越えて活躍。作品はニューヨーク近代美術館、パリ国立近代美術館、ミュンヘン近代美術館等にコレクションされている。近年は日本だけでなく、ヨーロッパ、アジアなどで教育活動にも注力している。近著に『地場産業+デザイン』(学芸出版社)など。

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